デジタル社会形成基本法と従来のIT基本法(旧法)の違い(デジタル庁でいったい何が変るのか?)
デジタル社会形成基本法(以下「本法」という。)は、デジタル改革関連法案の一つとして2021年年2月9日に閣議決定され、第204回国会にて成立(令和3年法律第35号、同年9月1日施行)しました。
本法は、2000年に成立した高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号。以下「IT基本法」という。)の後継法として、「誰一人取り残さない」、「人に優しいデジタル化」といった考え方の下、デジタル社会の形成に向けた基本理念や施策の策定に係る基本方針等を定めています。
では一体、従来のIT基本法にはどんな課題があって、本法では何が変わったのか?
本法では、「誰一人取り残さない」、「人に優しいデジタル化」という理念のもと、戦略的目標として以下の3点を掲げています。
デジタル社会形成基本法の戦略的目標
① 国民の幸福な生活の実現
② 誰一人取り残さないデジタル社会の実現
③ 国際競争力の強化、持続的かつ健全な経済発展の実現
この目標を達成するにあたり、従来のIT基本法では次のような問題がありました。
即ち、IT基本法の施行後、高度情報通信ネットワークの整備が相当程度進展し、大部分の国民がパソコンやスマートフォン等を通じて情報を入手、共有、発信している状況にはなりましたが、データを最大限に活用した「創造的かつ活力ある発展」ができていなかったのです。
また、デジタル技術の悪用・乱用防止や被害防止等を含む必要なリテラシーを国民に育ませることもできませんでした。
さらに、今般の新型コロナウイルス感染症への対応において、国、地方公共団体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率、煩雑な手続や給付の遅れなど住民サービスの劣化、日本社会におけるデジタル化の遅れなど、様々な課題が明らかになりました。
そこでこれら課題を抜本的に解決すべく、本法の戦略的目標を達成するために、大きな対応策として以下の4点が掲げられました。
目標達成のためのアクションアイテム
(1)行政サービスのデジタル化
スマートフォン1つで、引っ越し手続などあらゆる手続が役所に行かずとも、オンラインでできる。国からの給付金が、申請なくとも振り込まれる。このような社会をつくるため、自治体のバラバラなシステムの統一や標準化、マイナンバーカードの普及などを進める。
(2)暮らしのデジタル化
オンライン診療など、日常生活が便利になり、地方にいても都会と同じような生活ができるよう、医療、教育、防災、決済などのデジタル化と制度の見直しを進める。
(3)産業のデジタル化
公的機関の基本的なデータを広く共有するなど、新しいビジネスを作り、雇用と投資を生み出す。
(4)デジタルデバイドへの対応
誰一人取り残されない理念で、障害者や高齢者に対する支援を行う。関係省庁において縦割りに陥らずに、年末までに新重点計画を策定し、着実に成果を上げるよう行動する。
司令塔としてのデジタル庁
前述の戦略的目標を実現するため、デジタル社会の形成に関する司令塔として、また、強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織として、デジタル庁設置法(令和3年法律第36号、同年9月1日施行)に基づきデジタル庁が設置されました。
基本方針を策定するなどの企画立案や、国、地方公共団体、準公共部門等の情報システムの統括・監理を行うととともに、重要なシステムについては自ら整備します。これにより行政サービスを抜本的に向上させるとのことです。
なお、デジタル庁設置法には一定期間後の見直し規定が置かれ、状況に応じて柔軟に機能・組織を見直すとのことなので、実務を担当する我々行政書士としても必要に応じ、行政手続き等の不合理な点を訴えてゆくことが本法の目標達成に不可決なことだと思います。
関連法の改正
本法に基づきデジタル社会の形成に関する施策を実施するため、個人情報の保護に関する法律、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律ほか、多数の関係法律を改正するために、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号、同年9月1日施行、以下「デジタル社会形成整備法」という)が制定され、所要の整備を行うこととされました。
なお、このデジタル社会形成整備法による被改正法令は120本を超えます。
被改正法令の詳細は、こちらを参照ください。