改正民法が施行(2020年4月1日)されました
1 改正民法の概要
2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(2017年法律第44号)が成立し(同年6月2日公布)、一部の規定を除いて2020年(令和2年)4月1日から施行されました。
民法のうち債権関係の規定(契約等)は、1896年(明治29年)に民法が制定された後、約120年間ほとんど改正がされていませんでした。今回の改正は、民法のうち債権関係の規定について、取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に、社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに、民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。
改正の骨子は以下のとおりです。
(1)時効期間の判断を容易化【改正法第166条関係】
(2)法定利率についての不公平感の是正【改正法第404条関係】
(3)安易に保証人となることによる被害の発生防止【改正法第465条の6~9関係】
(4)定型約款に基づく取引の安定化・円滑化【改正法第548条の2~4関係】
(5)意思能力、将来債権の譲渡、賃貸借契約等について国民一般に判り易くする【改正法第3条の2関係、第466条の6関係、第621条、第622条の2関係】
なお、今回の改正は一部の規定を除き、2020年(令和2年)4月1日から施行されましたが、施行日には次の二つの例外があります。
① 定型約款について
定型約款に関しては、施行日前に締結された契約にも、改正後の民法が適用されますが、施行日前(2020年3月31日まで)に反対の意思表示をすれば、改正後の民法は適用されないことになります。この反対の意思表示に関する規定は2018年4月1日から施行されます。なお、この反対の意思表示に関する注意点は以下のとおりです。
★定型約款に関する規定の適用に対する「反対の意思表示」に関する注意点
(注1) 反対の意思表示がされて、改正後の民法が適用されないこととなった場合には、施行日後も改正前の民法が適用されることになります。もっとも、改正前の民法には約款に関する規定がなく、確立した解釈もないため、法律関係は不明瞭と言わざるを得ません。改正後の民法においては、当事者双方の利益状況に配慮した合理的な制度が設けられていますから、万一、反対の意思表示をするのであれば、十分に慎重な検討を行なう必要があります。
(注2) 契約又は法律の規定により解除権や解約権等を現に行使することができる方(契約関係から離脱可能な者)は、そもそも、反対の意思表示をすることはできないこととされていますので注意が必要です。
(注3) 反対の意思表示は、書面やメール等により行う必要があります。書面等では、後日紛争となることを防止するため、明瞭に意思表示を行うよう留意してください。
② 公証人による保証意思の確認手続について
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は一定の例外がある場合を除き、事前に公正証書が作成されていなければ無効となりますが、施行日から円滑に保証契約の締結をすることができるよう、施行日前から公正証書の作成を可能とすることとされています。この規定は2020年3月1日から施行されます。
2 主な改正内容
(1)業種ごとに異なる短期の時効を廃止し、原則として「知った時から5年」にシンプルに統一【改正法第166条関係】
旧民法では、消滅時効を原則10年とし、特則として債権の内容ごとにこれより短い期間の消滅時効(短期消滅時効)を設けていました。短期消滅時効には、飲食店のツケ等(1年)、美容院・理容院のカット代等(2年)、診療代等(3年)があります。
改正民法では、特に合理性のない短期消滅時効の特則を廃止するとともに、消滅時効の原則期間である10年という期間も長すぎるとして、原則として権利行使が可能であることを知った時から5年に統一されました。
(2)法定利率を現行の年5%から年3%に引き下げた上、市中の金利動向に合わせて変動する制度を導入【改正法第404条関係】
日本経済がデフレに陥り、日本銀行がゼロ金利政策をとる現在の経済状況にあっては、旧法定利率の年5%(固定)は、経済の実態と乖離したかなり高い利率でした。また、将来、経済状況が好転あるいは悪化した場合に、法定利率が年5%に固定されていることが果たして合理的であるか疑問がありました。
そこで改正民法では、法定利率について、現行の年5%から年3%に引き下げた上で、市中の金利動向に合わせて変動する制度を導入することになりました。
(3)事業用の融資について、経営者以外の保証人については公証人による意思確認手続を新設【改正法第465条の6~9関係】
事業用融資の債務は一般に金額が高額となり、保証人の責任は極めて大きくなります。債務者の支払い不能によって、債権者から突然想定外の高額な債務の支払いを求められ、破産や夜逃げ、一家離散、自殺に追い込まれる保証人も散見されます。
そこで改正民法では、事業用融資の債務について保証契約を締結するには、保証人になろうとする者が個人である場合には、その個人が債務者たる法人の経営者(理事、取締役等の役員)である場合を除き、公証人が保証人に対し、その保証意思を十分に確認し、保証契約につき公正証書を作成しなければ、効力を生じないものとされました。
(4)定型約款を契約内容とする旨の表示があれば個別の条項に合意したものとみなすが、信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効と明記。また定型約款の一方的変更の要件を整備。【改正法第548条の2~4関係】
約款は、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であってその内容の全部または一部が画一的である場合には、取引を迅速かつ円滑に行うために便利なものですが、他方、お互いの明確な合意とは別の事項が契約内容になり得るという点で、当事者の合意によってのみ成立するという契約の本来のあり方からすると極めて特異な性質を有するものでした。
そこで改正民法では、約款を「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」すなわち「定型約款」として定義し、一般消費者保護の観点から、定型約款の合意、内容の表示および変更について、諸規定を設けました。
(5)意思能力、将来債権の譲渡、賃貸借契約等について国民一般に判り易くする
①意思能力(判断能力)を有しないでした法律行為は無効であることを明記【改正法第3条の2関係】
旧民法では、「権利能力」や「行為能力」についての規定はありますが、「意思能力」についての規定がありませんでした。しかし意思能力を欠く者の法律行為が無効であることは判例法理として確立した考え方でした(大判明38.5.11ほか)。そこで改正民法では、法律行為の際に意思能力を欠く者がなした法律行為は、無効であるとの規定が設けられました。
②将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることを明記【第466条の6関係】
旧民法では、将来債権の譲渡についてこれを有効とする旨の規定がありませんでした。もっとも、将来債権の譲渡が有効であることは判例法理として確立した考え方であったので(最判平11.1.29ほか)、改正民法では、将来債権の譲渡が可能である旨の規定が設けられました。
③賃貸借終了時の敷金返還や原状回復に関する基本的なルールを明記【第621条、第622条の2関係】
賃貸借契約の終了時に賃借人は賃借物の原状回復義務を負うものの、通常の使用収益によって生じた損耗等についてはその義務の範囲から除かれることなどを明記しました。